目を覆いたくなるような恐怖の連続。
それが、ホラー映画の醍醐味です。
毎年、多くのホラー作品がリリースされますが、身の毛もよだつような映画はごくわずかです。
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2016年度の一押しは、何と言っても「ドント・ブリーズ」でした。
盲目の殺人鬼の前では、息をすることすら命を縮める行為になりかねません。
しかしながら、2017年度の上半期には、すでにその恐怖を塗り替える戦慄が、あなたを襲いにやって来ます。
ハリウッドのホラー新作映画「ゲットアウト(Get Out)」は、今日もアメリカで現実に起こっている、恐怖そのものと言えるでしょう。
この記事を書いたのは3月で、日本での公開は10月の末。
他の国ではとっくに上映が終わっているというのに、この辺りが永遠に日本がファーストランナーになれないところなのでしょうか。
ホラー新作映画:ゲットアウト
低予算ながら、一度ヒットすると雪だるま式に興行収入が増え、瞬く間にメガヒットとなるホラー映画。
恐怖に国境はなく、たとえ言葉が通じなくても、鳥肌が立つ感覚は万国共通と言えるでしょう。
リメイクこそされましたが、映画を見終わった視聴者にさえ白昼夢を見せるような、そら恐ろしい和製ホラーが海を渡っています。
個人的には、荒唐無稽のでっち上げたような内容よりも、生活の中に実在する恐ろしさにこそゾクゾクします。
「ドント・ブリーズ」は、まさにその点においても申し分のない作品です。
ところが、早くもこの春に、そんな戦慄をも凌駕する、また新たな恐怖がやって来ます。
あなたもご存知のように、"ゲットアウト(Get Out)"とは、「外に出ろ」という意味です。
動詞が前に来ているので命令形になりますが、これが会話文になると俄然緊迫感を伴います。
ただ、「外に出ろ!」というだけではなく、「一刻も早くこの場を離れろ!」となるのです。
それはあたかも、突然目の前に、カウントが尽きかけた時限爆弾でも差し出されたかのような状態。
とは言え、それほど緊迫した状況が、はたして普段の生活の中にあるのでしょうか?
もし、あなたが、アメリカのテキサス州やミシシッピ州、またはアラバマに住んでいるとすれば、あるいは日常茶飯事に感じるかもしれません。
新大統領に代わってからというもの、全米の至るところで起こる人種差別が原因の暴行殺人事件。
比較的能天気で世情に疎い◯◯人にとっては、それこそ他人事なのでしょうが、黒人やヒスパニック系の人達にとっては、今まさにそこにある恐怖なのです。
そんな、人種的偏見によって生み出される恐怖を、黒人の目から見た鮮烈なホラー映画が、今回ご紹介する「ゲットアウト」です。
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ゲットアウトのあらすじ
「ゲットアウト」の監督は、「Keanu(キアヌ)」での爆笑を誘った黒人俳優、ジョーダン・ピール(Jordan Peele)氏です。
2017年のアカデミー賞では、黒人社会のクローズアップされてこなかった部分にスポットを当てた作品、「ムーンライト」が作品賞に輝くなど、ここへ来てマイノリティー映画人の活躍が目立ちます。
そんな中、ピール氏は、今作でのシナリオライターと監督を兼任しており、映画はほぼ全て彼の思惑通りに制作されました。
同じく、2016年にリリースされた、「バース・オブ・ネーション(The Birth of a Nation)」のように、黒人から見た白人社会を皮肉たっぷりに描いています。
異人種間の恋愛は、今や珍しい事ではありません。
マーチン・ルーサー・キング牧師がそのスピーチの中で語ったように、黒人と白人が肩を並べて談笑し合う姿が、21世紀の社会では現実に見られるようになりました。
しかし、その傍らでは、ネオナチが静かにその羽を伸ばし始め、オルトライトなどの新興勢力も生まれているのです。
現に、モ◯◯ナでは、白人至上主義者によって、有色人種やユダヤ系の人々が今も被害に遭っています。
日本ではまず考えられないことですが、アメリカにおける人種問題は、スプラッターホラーよりも冷酷で残忍です。
あらすじ
写真家のクリスは、彼女であるローズと共に、週末を使って彼女の実家に遊びに行くことになりました。
クリス・ワシントンは黒人男性で、ローズ・アーミテージは白人女性。
異人種間の交際に後ろめたさはなくとも、ローズは家族に、クリスが黒人であることを打ち明けてはいませんでした。
一抹の不安を胸に、クリスはローズと共にアーミテージ家に向かいます。
アーミテージ家には使用人が働いており、一人は黒人男性のウォルター、そしてもう一人は黒人女性のジョージアでした。
ローズの母であるミッシーは、少しのきっかけからも相手を術に陥れることができる、凄腕の催眠術師です。
アーミテージ家に着いたその晩に、クリスは、自身でも気が付かないうちに催眠術にかけられてしまいます。
身動きが取れず、椅子に縛り付けられたような感覚に見舞われ、意識がもうろうとするクリス。
突然、ベッドで目の覚めた彼は、それが悪夢だったと安心するのですが、愛煙家であるはずの自分がタバコを嫌悪しているのに気付き、催眠術にかけられたことが分かります。
翌日、アーミテージ家の庭では盛大なパ-ティーが開かれ、数組の白人老夫婦がやって来ます。
ただ異様なことに、その誰もがクリスに異常なほどの関心を持つのでした。
中でも、唯一の黒人ゲストであるローガンは、クリスが隠し撮りしたカメラのフラッシュに錯乱し、いきなり襲い掛かって来ます。
何か言い知れぬ違和感に襲われたクリスは、ローズを誘って散歩に出かけます。
彼らがパーティーを離れている間、庭では、クリスを商品としてオークションが行われるのでした。
アーミテージ家に戻ったクリスは、パーティーで撮った黒人男性(ローガンの)の写真を、友人で政府の警護職に就くロッドに送ります。
ロッドが、クリスから送られてきた写真をネットで検索したところ、それがつい先日姿を消した、アンドレであることが分かります。
ローズにローガンの話を打ち明け、一刻も早くアーミテージ家を離れようとするクリス。
しかし、偶然見つけた写真の中に、ウォルターやジョージア、そしてその他大勢の黒人たちと映っているローズを発見し、彼女が彼を誘い込むおとりだったことに気付きます。
ローズをおいて、一人でその場から逃げようとするクリス。
しかし、そこには彼を離すまいとする、アーミテージ家の策略が……。
この続きは、どうぞ映画をご覧ください。
アメリカに忍び寄る白い恐怖?!
ホラー映画「ゲットアウト」は、ただ白人が黒人を捕まえて◯◯にしようとするのではなく、もう一歩先へ進んだ描写をしています。
それは、現代のアメリカ社会でも白人優先主義であることに変わりはなく、ともすると今作の中で描かれているように、黒人の◯◯までも&%#*+$$にすることです。
おおっと、これ以上話すとストーリーが読めますから、ここはうやむやのうちに終えておきましょう。
とにかく、これまでにあったどの映画よりも、人種間の偏見を浮き彫りにした作品であることは間違いありません。
ただし、この作品は、「2000人の狂人(Two Thousand Maniacs!)」のような、あからさまな暴力は演じていません。
もっと、誰の心の中にもある、精神的な野蛮さや利己的な部分にフォーカスしています。
余談ですが、FBIの調査によると、ヘイトクライム(嫌悪が元で起こる犯罪)のトップは、人種が原因だとしています。
宗教や性別による差別を遥かにしのぎ、人種の違いが一番の原因となっているのです。
これはもはや、アメリカの有色人種にとっては、ホラー以外の何物でもありません。
FBIの調査資料:ヘイトクライムの割合 トップの "Race" が人種による犯罪率です。
たった500万ドルほどの予算で、1億5千万ドルもの収益を叩き出したモンスターホラー作品(これもある意味ホラーかな?)。
しかも、公開されたのは2017年の2月24日でした(3月21日現在)。
アメリカ国内だけで一億ドル以上を稼ぎ出していることからも、今後はさらに売り上げを伸ばすでしょう。
日本での公開は未定でしたが、10月27日に上映が始まりました。されるかもしれません。
終わりに
主演は、ダニエル・カルーヤ(Daniel Kaluuya)さんと、アリソン・ウイリアム(Allison Williams)さんが務めています。
どちらもTVシリーズへの出演が長く、特にアリソンさんは、テレビドラマ「ガールズ(Girls)」で5年もの間メインキャストだった人気女優です。
この作品をきっかけに、スクリーンへのオファーも増えるでしょう。
この映画がヒットした背景には、皮肉にも、トランプ大統領の人種差別的発言の影響があると考えられます。
おかしなことに、おかしなところから火が付くものです。
いずれにせよ、この作品が上陸する頃には、また新しい記事をアップする予定です。
今年、おすすめのホラー作品です。
今作は、コメディー・ホラー(comedy horror)、またはブラック・コメディー(Black comedy)などとも呼ばれていますが、これはタブーを恐れずに描写するときに使われる表現です。
実際にゲラゲラと笑えるわけではなく(面白いシーンは含まれますが)、風刺的な意味合いが強い作品に対して用いられます。
日本でも人気の、「パルプ・フィクション(Pulp Fiction)」はその典型です(ホラーじゃないけどね)。
こちらをまだ見ていない人は、ぜひ見て下さい。鳥肌モノです。